明るい勇気がこんこんと……「野宿もん」を読みました<徳間書店刊 1500円+税>
■若い友人、かとうちあきさんが二冊目の本「野宿もん」(徳間書店)を出しました。パラパラとページをめくると、しなやかな平仮名が上品に差並んでいます。漢字で真っ黒なんて頁はどこにもない。写真もない。シンプルな200頁をこえる素直な本文です。
◆その優しさに誘われて「野宿もん」を携えベッドに向かいました。机に向かうというのではタイトルに似合わないよ。それにしても「野宿もん」ねー。旅ならまだやめられない私ですが、カラフルな表紙に血がさわぎました。シュラフに包まれたピンク、黄、赤、みどり、青。色とりどりの五色のみのむしが並んでいます。直感が走りました。シュラフにもぐれば世界は変わる。世界はつながるのだ。
◆文中に波瀾万丈はありません。修行中のおじさんにHなことばを言われても「面白い冗談ですね」と体をかわす。一緒に出発して来た友人と途中で別れても、隣の無人駅に別れた友人が野宿していることを想像するのはなつかしい。いつでも心がうきうき明るいのです。
◆大学の休みは長い。うきうきと四国へ出かけ高を括っていたら、旅が終わらないうちに学校が始まる。大さわぎしていませんが旅は続き終わって学校に戻る。この自然な旅もシュラフにもぐる日々がつないで行きます。世の中黒と白だけでないことも多いのです。そんなちあきの明るさが、野宿あけのさわやかさと共に訪れます。
◆そもそも名前だって「ちあき」には「重」のような重さはない。私の父母は明治生まれ。ちあきの両親は60年安保の時はまだ子どもだったでしょう。その後の高度成長期に大人になり子育てをしてきた世代でしょう。そして平成のいま、東日本の天災と人災が一緒にやって来て、日本はいよいよこれからです。
◆それにしても「野宿もん」の痛快さ。なんと東京のど真ん中で本屋野宿もしています。当日は辺境冒険作家高野秀行さんのトークに大勢の人が参加し、イベントの後店長さんも高野さんも一緒に本屋の前で野宿に入ったのです。このアイデアと行動力、日頃野宿を実行し楽しんできた彼女たち。いざという時に自然に底力を発揮する人間力の頼もしさ。勇気が本の中からこんこんと湧き出してくるこの面白さ。今夜のシュラフの温かさ。明日の夜明けの明るさがいっぱいにつまっています。(金井重
★恒例の重さん短歌、しばらくお休みします。