金井重@地平線通信&chiheisen.net

短歌2011

▼2011年1月の地平線通信/十二月詠…上野三碑

宮司さんの 育てし青菜 頂きぬ
   酉の市開く 神社詣でに

ふと参りし 武蔵最古の 大社なり
   催馬楽神楽の 清しめの舞

頂きし 青葉大根に 故郷の味噌
   なじみて旨し 熱き味噌汁

銀杏もみじ かぶりて若やぐ かやぶきの
   神楽堂なる 騎西の明神

かさこそと 銀杏黄葉に 坐すわれに
   笛の音しみる 江戸里かぐら

笠石を 冠った多胡碑 六行の
   文字もくっきり 読める字もあり

多胡金井塚 山上の上野三碑
   文字文化伝う 東国の誇り

今にして ケイタイ持ちて あヽ忙し
   電子書籍の 始まりし年に

明と暗 じりじり綱引き 午前三時
   寒さもピーク 朝の始まり

乳母車と 一緒に乗りし エレベーター
   一期一会に のぞきてバイバイ

▼2011年2月の地平線通信/一月詠…関三刹

元旦の 鈴の音さやかに 浦安の舞
   みやびの薫り 香取のお社

どんどのつよ火に 焦りつつ もちやきて
   あつあつを食む 境内の森
   《関三刹(関東の三寺)》

経蔵庫の 古壁の浮彫 あざやかに
   帰国の道元 馬の背に経典
   《龍穏寺・埼玉》

山腹を 登り本道 粛々と
   石塔ひとり 冬陽ほしいまま
   《大中寺・栃木》

寺の道の 江戸川海へ 十余キロ
   流れゆうゆう 旅の修行僧
   《総寧寺・千葉》

ケイタイを 忘れて街に 飛び出して
   会えるでしょうか 運の神様に

物忘れ ふと思い出す その一瞬
   主も知らぬ 不思議な回路

医者の云う グレーゾーンに 迷いけり
   脳の中なる 越境者のかげ

治水橋から くっきりと 雪の富士
   思いかけない 今日のしあわせ

海へだて 母への思い 獄中から
   くしゅんくしゅんと 読初めのご縁
   《郷隼人の歌文集をよむ》

★[郷隼人]若くして渡米し、84年、殺人罪で終身刑の判決を受け、カリフォルニアの刑務所に服役中。望郷の思いを短歌に託し、「朝日歌壇」の常連となる。歌文集「LONESOME隼人」(幻冬舎)は「天声人語」でも紹介され話題に。

老い母が 独力で書きし 封筒の
   歪んだ英字に 感極まりぬ

▼2011年3月の地平線通信/ノアノアの黒と白

七度目の 卯年の二月 事故に遭う
   やっぱり運さま 体はまあまあ

思わずよいしょ と声出して よいしょで座る
   よいしょ五線譜の 日々のなりわい

動けるよ 太極拳も その調子
   それでいいのさ いろいろあるさ

名を呼ばれ 気はあせりつつ どっこいしょ
   そろりと参る 病院のひる

背中見せ レントゲン診て 一瞥し
   骨は折れてない 今日はこれでと

高齢の 補聴器つけし 耳鼻科医は
   「返事大きいな くすりを出そう」

車椅子を すいすいと 「ノアノア」の前
   連作版画に 出会いて動けず
   《★ゴーギャンの連作版画「ノアノア」(マオリ語で「かぐわしい」)》

ゆるやかに 光輝く 黒と白
   島の女ら 「ノアノア」のにほい

すくと立つ 裸木の肌 ぴたぴたと
   叩きつづけり あとのつくまで

バスもある 電車も走る この世だよ
   あわてず待とう わが終バスを

◆重さん、2月5日、車を運転中、一時停止せず衝突。大事には至らなかったが、首、腰など打った、とのこと。免許証は返納したものの、間もなく米ユタ州に旅立つ元気さ。「八度目の卯年」も確実か。

▼2011年4月の地平線通信/三月詠…避難所から

連帯の よせがき並ぶ 明るさよ
   ボランティアの 動きも生き生き

待機する ボランティアも 街の人も
   広場のパフォーマーたちに 手拍子の渦

腕章なしは 入れずも 帰途のバス
   保育の女性と 話しはずみぬ

腕章が 双葉の人かと 我に問う
   彼は社にもどり 我と出合いし女性(ひと)

原発から 三キロ圏の うぬまさん
   残しきし牛が なによりつらいと

避難所を ここも危険と 移動して
   六カ所目の人ら いつ戻れるのか

牛との日々の 忙わしさも これが生き甲斐
   つまりし声に 胸しめつけらる

よしきとたくや ここで出合いし クラスメート
   ポツリポツリ また明日移動と

原発で 働く父と 日々の電話
   大丈夫ですと 健気なよしき

フクシマが 世界語となる 切なさよ
   うみ・やま共に よみがえれ日本

★さいたまスーパーアリーナには東電福島第一原発事故で福島県双葉町からの1200名など、合わせて2000名が一時避難しました。双葉町役場も一時移転しました。

▼2011年5月の地平線通信/四月詠…良寛の道1

原発と 付けて下さい フクシマが
   泣いていますと 福島の声

大きいよ 余震にとびだし 空あほぐ
   月には杵もつ 兎がおりぬ

言い伝えの「津波てんでんこ」 いま生きる
   明日の力 てんでんこから

世界語の「フクシマ ヒフティ」 レベル7
   世界が見つめる 日本の原発

うたよみの 出合の縁  抱きしめて
   「蓮の露」の 水くきさやに

春の湯の 街なかにあり 釈迦堂あと
   地蔵並んで 歌碑の安らぎ

晩年の つつまし不求庵 そのままに
   街道ぞいに 跡地も地蔵も
   《於 柏崎(貞心尼を尋ねて)》

語らざる 意悠なるかなと 君に対す
   沙門良寛 墨のうるおい

荒海に 歌い祈りし 芭蕉日蓮
   大愚良寛 出雲崎生れ

佐渡を背に 生家跡に 素朴なる
   人柄うつす 良寛堂あり
   《於 出雲崎》

▼2011年6月の地平線通信/五月詠…良寛の道2

質素なる 古き本道 密やかに
   国上寺あり 山並のなか

境内の 山の気すかし ひともとの
   しだれ櫻は いまさかりなり

鞠ふたつ 掛軸ひとつの 草庵に
   くるくると 舞い落葉訪ねくる

良寛の 遊びし姿 見えかくれ
   はちすば通りの 宇奈具志神社

良寛の 墓碑めぐりきて 木村家に
   世情を うつす由之の文あり
   《木村家の離れが良寛最後の住い 由之=良寛の弟》

木村家の 当主六十代 良寛の
   現代につながる 書をひろげ読む

与板町の 父の以南の 生家あと
   みどりの庭に 大き句碑あり

橋わたり 歌碑公園の 数々の
   かな文字やさし 豊かに流る

《避難所から》

移りきて 田んぼの中の 避難所よ
   わが田をおもい あゝ切なしと

梅雨がきて 廃校あとの 避難所に
   来賓も消え ときの流れよ

二ヶ月余 間仕切風呂なし 避難所に
   昨日はありや ふるさと遠し

▼2011年7月の地平線通信/六月詠…石見銀山

トンネルの 小さきをくぐり 下は海
   山陰本線 二輛のディーゼル

崩れたる 石垣石碑 点々と
   歴史を秘めし 銀山の道

今はなき 垣内に住む 家族らの
   日々のくらしや 思うだにいとし
  《垣内=天領時代 柵で囲まれ出入口には番所が置かれた》

ふみ出して ライトたよりに 背をちぢめ
   この闇堀りしか 間歩の冷たさ
   《間歩=坑道・坑口》

暗き穴 ここにあすこに 口あけて
   間歩のあかしを 語るがごとし

なだらかな 馬の通いし 道消えて
   石の急坂 大久保間歩へ

ヘルメット 長靴はきて ライト手に
   地下も頭上も 手掘りの間歩ゆく

山と川 みどりの中の 伯備線
   備中神代あり 吉備に入りしか

登りきて 年輪しみじみ 円通寺
   鉄鉢を手に 若き良寛
   《円通寺=良寛が修行し「印可の偈」をうけた寺》

国仙和尚の 木像拝し 墓おがみ
   長連寺辞す しぐれの中を
   《国仙和尚=良寛の師》

県都岡山の 路面電車も スマートに
   六層の天守 漆黒の烏城かな

▼2011年8月の地平線通信/七月詠…滝行/高崎山にて

滝のごと 汗しぼり出し のぼり来て
   法螺貝ひびく 社殿を拝す

正座して 拍手を打つ 神の前
   法螺貝と笛のデュエット響く

あえぎつつ 山道に聞く 滝の音
   みどりの中の 神のしわぶき

打つおちる ごうごうとなる 滝に問う
   頭を上げて 一歩ずつ前へ

白刃の滝 肩に身に 激しかり
   ひとすじに念ず 水神様を

滝行の かなしみ深し 下山かな
   町並はるかに 一気にかげる

どこの誰れ 毎日よみきく シーベルト
   古びし地図拡げ スウェーデンみる

一時帰宅の 息子と母の 七○代
   突き出すマイクに 「掃除します」と

今朝生れしか 赤子を胸に 母猿も
   数百頭の 寄せ場の饗宴

群れふたつ 住み分け上々 午後三時
   かけ下り集まる 寄せ場の大郡

山肌を 数百の野猿 流れくる
   ざわざわどよめき 寄せ場めざして
   《高崎山にて》

▼2011年9月の地平線通信/八月詠…屋久島行

川ぞいの 岩肌のぼり 森に入る
    雨足はげし 雲水峡ゆく

神宿る 古木の前を おろおろと
    森にすわれし 拍手の音と

時に雨 小休止あり 渓谷の
    激しき流れ 天地の生気

ガジュマルの 林に入りぬ ガジュマルの
    気根をゆらす 秋風のなか

ガジュマルの 幹に気根に すがりつつ
   ガジュマルの 気の森を歩めり

灰色の 火山灰 むくむくと
    今日も錦江湾を 風まかせ

黒めがね ハナ眼鏡にして オノヨーコ
    ジョン・レノンの だめ男ぶりも
   《オノ監修「ジョン・レノンNY」をみる》

手をのげす 見知らぬ人は スーと消え
   耳の底から 盆の八月

はんらんす 神とマネーの グローバル
    倫敦騒乱 ノルウェーのテロ

エイサーの 音曲高鳴り 街つつみ
    先祖に天に 太鼓にのせて

目の前に 踊り子の脚 ぐんと伸び
    くるりと回る 汗とぶ笑顔

路上うずめ 手をふり腰ふり 街人も
   しんかぬちゃーの 熱き交流
   《しんかぬちゃー=仲間 於新宿エイサー祭り》

▼2011年10月の地平線通信/九月詠…仲秋の名月

伊豆山の 長き石段 のぼりきて
   名月に捧ぐ 神事に出会う

仲秋の 神事のすすむ 境内に
   しずしずのぼる 十五夜の月

歌詠の 捧ぐ大和歌 森にしみ
   祖のきずなの強くたのもし

仲秋の 3.11後の 名月よ
   同胞いずこ 兎も見えず
   [於 源実朝を偲ぶ名月の会=熱海伊豆山神社]

六万の 都心をデモす 友ら迎え
   野火のごともゆ 世直しの今

「ピカは 人が落さにや 落ちてこん」
   原爆の図の前に立ち スマさんの声が
    [ピカ=原爆 スマさん=女絵かき(丸木位里の母)]

残酷な ピープルジャパン 物語
   あの原発を まだ止めれない

あけそめし 雲なき空に くっきりと
   光る残月 丸さがよろし

くれゆかん 空に金星 もとめきて
   その輝きに心みちたり

仲秋の 九月生まれの 嬉しさよ
   さあ出直しと 勝手はずむ

▼2011年11月の地平線通信/十月詠…霧の海

ダム青し 激しき風に 逃げまどう
   村落のみし 水面は満々

あかあかと 荒海染めし 入日追う
   早足の雲 ついに被いり

城下町 袋小路の 昼下り
   馬蹄の音に 追われ惑いし

山の上 空いちめんに 霧の海
   泳ぎうかびて 霧に憩いり

しめ縄の ゆれてる下の 小さき祠
   荒神様に プリンがひとつ

それぞれの 鳥のにぎわい 森の朝
   五重塔の 端然と建つ

つり鐘へ 撞木を放つ とき放つ
   重き響きに ゆられひたりし

原発に 水害地震の この地球
   さあ正念場 七十億人

「夜と霧」 リクェスト多し 図書館に
   見えざる市民の 顔見し心地す

アルプス越え ナイアガラ潜り もうすぐだ
   月の世界が 近づいてきた

▼2011年12月の地平線通信/十一月詠…方墳の風

出土せる かわらけの破片 にぎりしとき
   祖たちの姿 ありありと見ゆ

飛鳥世の ほのかに甘き 酥を食めば
   方墳の風 ふく気配する
   (於房総風土記の丘)

大塔の 礎石の穴の 水静か 
   日照りも雨にも 水かさ変らず
   (於廃寺となりし龍源寺)

かみ逆立て まなこ吊上げ 円空の
   雲文激し 蔵王権現

歯をのぞかせ こぼれるような 「笑い薬師」
   円空さんの 声も聞こえく

ゆったりと 立ちし姿の 釈迦如来
   腹に渦巻く 雲文二つ

冬晴に 浮かれ芝川 わたりけり
   見沼たんぼの 用水縁ゆく

空見上げ 業平橋を 渡りけり
    スカイツリーの 顔は空のなか

くっきりと ビル従いて スカイツリー
    吾妻橋から 名所でござる

女偏に 家なら嫁ね 子なら好き
    生まれるはなに姓名の姓よ

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