金井重@地平線通信&chiheisen.net

短歌2010

▼2010年2月の地平線通信/二〇一〇年一月詠…狩猟サバイバル…土偶展

《「狩猟サバイバル」を読んで》

今の世に けもの撃ちて食う 壮士あり
   生命あふれる 縄文期想う

        ★

反基地の 選挙の声に 立ち止まり
   チラシを手にす ひるの駅前

《「土偶展」にて》

縄文の ビーナスの前に 立ちつくす
   「出っ尻土偶」の 大地の光り

立ち姿 しゃがむ姿の どっしりと
   重き口あけ 土偶は語る

狩猟時代の 土偶はすべて 女なり
   祈る姿に 縄文文様

あふれでる 狩猟時代の エナジーの
   生命いっぱいに 土偶のゆたかさ

        ★

女正月 帰国の友と 甘酒くみ
   はなしの果ての 今年の初歌

インディオの日々の暮らしを語るとき
   われ若き日の ハポネッサとなる
   《インディオ(中南米の先住民)》
   《ハポネッサ(日本人女)》

粉ふきて ぷっくりメタボの 吊し柿
   喰みてひろがる 安達太良の里

海図なき 道草の旅 その後の
   おなごどち立つ スローな旅に

▼2010年4月の地平線通信/ラダック詠(二〇一〇年二月)

ヒマラヤの 山系深き 村は過疎
   人ら冬ごもる ラダックに着く

陽がのぼり 全山白く 輝きぬ
   ヒマラヤ山系 神在す嶺

襞の 雪の模様の 濃淡に
   個性くっきり 大自然の妙

〈ストーク・グル・ツェチュ祭〉 四首

雪山に 囲まれ人ら 優しかり
   誰もが我を 支え登りぬ

あざやかな 仮面舞踏の その中に
   ふたりのシャーマン 飛び込み踊る

トランスの シャーマン飛び跳ね
   鈴なりの 人らどよめき 歓喜の興奮

山腹の 寺院ゆるがす 大歓声
   祭り一色の 村の喜び

〈セコモル(教育施設の寮)にて〉

交ごも 一七、八の 寮生の
   祖父母と暮す 未来を語る

我に三男二女ありと
   民宿の 主の破顔 ぬくき牛糞

アムチ言う ストレスも 気の滞り
   天地と体の 気を巡らせよ
   《アムチ……チベットの伝統医》

雪山の 過疎の村々 冬野行く
   老夫の姿に 明日を祈りぬ

雪山と あの神の嶺 はるかなり
   車と人の デリーの大路

《リシュケシュ詠(二〇一〇年三月)》
   山かすみ はるかに青き ガンジス河
   ビタールアシュラム 山腹にあり

部屋にやもり 庭に神話の ハヌマーン
   マンゴーの花 つまみつつ食う
   《ハヌマーン……猿の一種》

顔黒く 体毛銀色の ハヌマーン
   賢者の顔して 枝から枝へ

風さやか 木々のエナジー 匂いけり
   ブーゲンビリアの 紅き羞い

街のなか 問・聴診の 老人医
   体にためるな 減量せいと

地の果ての キツネ顔の犬 動かずに
   我を見て消ゆ 三月の朝

戸をたたくのは 山羊と風
 人見知りしないよ 彼らが先住者だもの

円盤のごとき 牛糞山積みし
 人ごみの聖地 牛車緩るゆる

▼2010年5月の地平線通信/四月詠

書を持ちて さくらの下で 開きけり
   「爆走中国」 われらが隣人
   《『爆走中国』森田靖郎著》

北宿坂 いつもの道の 華やぎて
   櫻の下を 花あびてゆく

見沼べり 川面のさくら それぞれに
   流れにまかせ 急ぐでもなし

花いかだ 三三五五と 流れつつ
   並木の櫻に 「お先に」と合図

駅までに 小・中・高と 三校あり
   心若やぐ 校庭の花見

さくらばな 浮かれうかうか はや晦日
   おあとに五月 控えてござる

修善寺に きて雨やまず 寺ひとつ
   おがみて湯治の 客となりけり

雲動き 岩山にょきり 顔を出す
   あごひげのごと みどりの濃淡

糞土師の 野糞の講演 熱ありき
   紙は厳禁 拭き草多種

いとしけり トイレの惜別 外っ国なら
   大地に肥料に 動物の餌を

さわやかに 昨日に続く 快便よ
   今朝の曇天 何ほどのこと

▼2010年6月の地平線通信/五月詠

毎朝の「ののちゃん」家の おかしさよ
   ばばも生き生き その名もしげさん
   《ののちゃん…朝刊に連載マンガの主人公》

稲荷山 古墳の上に のぼり立てば
   五世紀の風 どっとおそい来

登りたる 古墳の上に もののふの
   礫槨のあり 五世紀末の
   《礫槨…古墳の石室の中に棺を納めた石の囲い》

陽がのぼり 東の空に 鳥かしまし
   白き残月 南西に高し

陽がさして 青き風あり 連休の
   無人の街路 手を振ってゆく

よき土偶 弓矢で狩猟の 縄文期
   いまも世にある 鷹匠たのもし

戦時下の チベット潜行 語る翁
   痩身のばし 亡き人多しと
   《誠実な人柄の野元さんに再会して》

せかせかと 歩けど遅しと 笑わせる
   蟹の如しか われら朋友

バス停で 無心に指折る 三十一文字
   女の遊行期 旅うた日記

▼2010年7月の地平線通信/六月詠《筑波山》《火焔街道》《国東半島》うみやまのくらし

《筑波山》

登りきて 女体神社の 山の気に
   願ごと忘れ 合掌したり

悠久の 女体男体 神の峰
通う岩の道 ガマ石もあり

太古の森 とびこえて 一気に登る
   ケーブルカーあり 筑波山神社

境内の 袴に太刀の 口上士
   「ガマの油」に うたう鶯

《火焔街道》

街道筋の 火焔土器に じっと座り
   
   半眼のてい 無人の部屋に
火焔土器も 王冠土器も 本名は
   
   なんとそっけない 深鉢土器と
山と川 火焔街道の 火焔土器
   
   火のごとく生れ 炎のごとく燃ゆ
日本史の 古代ミステリー 火焔土器
   
   この川ぞいに 生まれて消えぬ
火をおこす 遠つ祖かこみ ぬくまりし
   
   われらの遺伝子 たき火が好きだ

《国東半島》

鹿肉たべ 魚の手づかみ うみやまの
   くらしもおかし 国東の旅

つゆ空の 山道すいすい 海をみて
   寺も八幡も これぞ国東

アフリカの 地図が拡がり ボールとび
   地球は丸いぞ 汗がはじける

つゆ空に 豊後聖人 たずねけり
   天地を師とす 人の像やさし

海山の 人ら元気だ たのもしか
   ともに行きましょ 人生の旅

高度下げ ガタガタふるわす 双発機
   機内はシンと 旅の終章

▼2010年8月の地平線通信/久見の夜神楽

草ふみて 風土記の丘の 昼下り
   鶯の声 遠く近くに

ざわざわと 右に左に 身をゆらす
   波のりさやか ぶなの木の森

ごつごつの 古木の枝葉 しなやかに
   涼しくゆれて 生命のつながり

みちのくに 銅鐸銅剣 出土なし
   自然を崇めし わが祖たちよ

鈴・太鼓 笛の音高く 夜神楽の
   白き幣 巫女の舞清し

まんまるの 中天の月 しみじみと
   猿田彦の舞う 神楽を照らす

黒き海 船をはばむか 波音高し
   南硫黄島 いま明けんとす

姿かくし 水平線を 赤々と
   染めし太陽 蚊帳のなか

平べったい 硫黄島の上にむくむくと
   白雲重なり 仁王現る

海鳥の 群舞とソロと さまざまに
 北硫黄島の 海と空の青

▼2010年9月の地平線通信/ラインダンス

梵字川の みやまの奥の 湯殿山
   山の気浄し 千四百年

霧うごき 小雨にけむる 御神体
   奇しき霊験 人ら語らず

先達も 宿坊も静けき鄙(ひな)よ
   今に伝えし 修験の大道

杉山の まなかにおわす 五重塔
   たくみの技に 木もれ日ゆれる

あえぎつつ みどりの山道 のぼりきて
   奥殿拝す 拍手高く

うら盆会 村に町にも 離島にも
   先祖の霊と まれびと集う

盆の入り シャッター下す 店通り
   残暑の熱気 ラインダンスのごとし

ふるさとの 山河に向う 帰省子よ
   君は会えるか 祖霊と物の怪
   父島二首

海みてる だけで好しという友ありき
   我も浜にて 一日すごせり

延々と ラピエ隆起し 島生れぬ
   地球の国産み 天空の青
  《ラピエ 石灰岩のこと》

◆先月号の「久見の夜神楽」の中で「緞帳」を「蚊帳」とミス入力してしまいました。正しい言葉で再掲します。重さん、申し訳なし。

姿かくし 水平線を 赤々と 
   染めし太陽 緞帳のなか

▼2010年10月の地平線通信/九月詠/水の惑星よ まだもちますか

お囃子の 響きにのりて ありありと
   八岐大蛇の 神代あらわる

うねり猛る かぐらの大蛇 黒衣をつつみ
   世に伝えきし 和紙のちからを
   《石州和紙はユネスコ無形文化遺産》

登り来て 座禅断食の 館につく
   眼下に拡がる 相模の海原

対岸の 緑の山に 鳥居見ゆ
   陽光ゆれて 海面輝く

秋に入り 喰わずに 坐るもひもじからず
   小鳥の声の 無心に響く

健やかな 気とからだ希い 坐す人ら
   場の力生まれ 人の和ひろがる

ようやくの 雨滝のごと 激しかり
   変動の地球 おさまるか秋

今朝の秋 このさわやかさ この哀しさ
   水の惑星よ まだもちますか

CTの 骨蓋骨の中の 細胞に
   「もう少しぢゃけん よろしくたのむ」

ステッキと めがねと 歯を入れ補聴器と
   フル装備して 今日も旅ゆく

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