《旅に詠む》
*ラダック詠(二〇一〇年二月)
 金井 重
ヒマラヤの 山系深き 村は過疎
 人ら冬ごもる ラダックに着く
陽がのぼり 全山白く 輝きぬ
 ヒマラヤ山系 神在す嶺
山襞の 雪の模様の 濃淡に
 個性くっきり 大自然の妙
 〈ストーク・グル・ツェチュ祭〉 四首
雪山に 囲まれ人ら 優しかり
 誰もが我を 支え登りぬ
あざやかな 仮面舞踏の その中に
 ふたりのシャーマン 飛び込み踊る
トランスの シャーマン飛び跳ね
 鈴なりの 人らどよめき 歓喜の興奮
山腹の 寺院ゆるがす 大歓声
 祭り一色の 村の喜び
 〈セコモル(教育施設の寮)にて〉
交ごも 一七、八の 寮生の
 祖父母と暮す 未来を語る
我に三男二女ありと民宿の
 主の破顔 ぬくき牛糞
アムチ言う ストレスも 気の滞り
 天地と体の 気を巡らせよ
  ――アムチ……チベットの伝統医
雪山の 過疎の村々 冬野行く
 老夫の姿に 明日を祈りぬ
雪山と あの神の嶺 はるかなり
 車と人のデリーの大路
*リシュケシュ詠(二〇一〇年三月)
 山かすみ はるかに青き ガンジス河
 ビタールアシュラム 山腹にあり
部屋にやもり 庭に神話の ハヌマーン
 マンゴーの花 つまみつつ食う
   ――ハヌマーン……猿の一種
顔黒く 体毛銀色の ハヌマーン
 賢者の顔して 枝から枝へ
風さやか 木々のエナジー 匂いけり
 ブーゲンビリアの 紅き羞い
街のなか 問・聴診の 老人医
 体にためるな 減量せいと
地の果ての キツネ顔の犬 動かずに
 我を見て消ゆ 三月の朝
戸をたたく のは山羊と風 人見知り
 しないよ彼らが 先住者だもの
円盤のごとき 牛糞山積みし
 人ごみの聖地 牛車緩るゆる