【ブータンへ「GNH(国民総幸福量)」探検に行ってきました】
■キリギスから帰ってきたら、ブータンに行きませんかという電話が入っていました。ブータンは日本の九州ほどの国ですが、今やGNH(注:Gross National Happiness「国民総幸福量」。6月のミャン マー報告会レポート参照)の知名度が上がり、国際会議でも大勢の人の注目を集めているそうです。
◆バンコクで旅のメンバーと合流しました。今回はNGO代表の2人とそのメンバーと私で4人です。この数はブータンでは大事な数でした。なんと言っても三人寄れば文殊の知恵、と一人ですから、そして勿体ないほど贅沢な旅でした。
◆道路を走っていて土手の上に5~6人集まっています。車を止めて土手に上がると、上半身裸のお坊さんが、筮竹は並べていませんが、虎の巻を脇に、どっしりと座ってクライアントと話をしています。その陽に焼けた真ん丸い腹を見ているうち、私もみて貰いたいとなりました。彼は開口一番「名前がカで始まる人は全部いい」と。そして「ウーン、口が悪いなー、しかし気持ちがいいからいい」。これを聞いて私のグループの男性たちですが、ウフフと声を押さえて笑います。年を聞いた彼は「25年は大丈夫だな」と言います。これは多すぎ、せめて10年にして下さい。それにしても口が悪いのを直しなさいとは言わない。角をためて牛を殺すことはしないですね。口は悪いけど気持ちはいいと太鼓判を押されると、とても人を憎むなんてことできませんよ。
◆さてさてこんな道草、20人のツアーでは無理でしょうね、4人だからできました。コミュニケーションの方法はいろいろですが、一人旅で相手の言葉ができない私が、なんとかやってきて、人と交じり合うことでさまざまな出会い、色々な発見に目覚めました。今回は日本語で話して日本語で返事がわかる。これはとても贅沢な旅でした。
◆国際空港のパロから車で、山道を登ったり下ったりしながら首都ディンプーに着いて、まず内務文化省の大臣と昼の会食をしました。大臣は「発電所を増設して電力を輸出し、国民の生活向上を目指す、環境を保持し伝統文化を守る」と、よどみがありません。このGNHのバックボーンはという質問には「仏教です。時間があればメモリアル・チョルテンにも行ってください」と言われてしまいました。
◆そのメモリアル・チョルテンは物日だったのでしょう、お坊さん達の音楽が鳴り響き、暑いなか大勢の人達の敬虔な祈りが続いてます。
◆ディンプーでは伝統医療の国立治療院で、金の鍼を持つと言われる若手の鍼灸師、そして次長、伝道技芸院の研修生達、さらに占星術のお坊さんと、さまざまな人達にお会いしました。最も印象的だったのが農民です。
◆ブナカへの道ドチュラ峠の僧院の前で日本人のツアーに出会いました。あなた達はと聞かれて「ブータンのGNHを探検してます」と言ったら、どっちの日本人も納得してました。
◆ブナカでは公立高校生と、そして大学生達と話し合いました。大学ではステージのある大きい室に、5~60名の学生達が集まってきて、活発な話し合いになり、意見がひとつでないのが心強いと思いました。
◆どの町でもちょっと走れば一面の田畑です。美しい棚田を登り、ある時は農家が作ってくれた昼食を頂き、話し合ったりしました。どこでも米を煎ったあられとバター茶を出してくれます。細い坂道をハアハア上がってきて、ちょっとした広場の周辺、十件あまりの農民はみな畑に出て不在でしたが、雨季の前に泥土で壁塗りをしていた家の亭主と話をして、二階に上がりました。彼は裏庭で乾かした野草の選別をしていたかみさんを呼んで、お茶の用意をして貰っています。婿さんだそうです。末の娘に婿取りのケースもあるのでしょう。
◆ブナカの近郊では健康そのものといった亭主が赤米の昼食を給仕してくれました。彼は「子どもは高校に行っている、私の作るものはいつも村で一番だ」と胸を張ります。「高校を出たら帰ってきますか」「それはわからない、子どもにまかす。農業はつらいし街での評価は低いが、今私は働き盛り、なんでもできる、幸せだ。将来のことは分からないが、幸せとは今のことだろう」と。一生懸命働いている彼が将来も幸せであり、農業に未来があることを願わずにおれません。
◆パロでは主婦がお茶を出している間に畑仕事の娘が戻ってきました。一人だけの兄はインドの大学を出て、ディンプーで弁護士をしている。彼女は農業は大変だが大丈夫、やれるし楽しいと言います。そして一番幸せなとき、それは両親が幸せなときだと。彼女の家は二階に居間・客間・台所・トイレなど。庭の水道からパイプで二階まで水を引いています。結婚は恋愛か見合いかの質問には、もし好きな人が現れればそうするだろうし、親がすすめる人があればそうするでしょう、今はまだわからないと生き生きした頬を赤く染めました。
◆私達の父や母が育った時代そのままのような、優しくおだやかな人達と一緒の、なんと楽しいことか。
◆グローバリズムの中でなにをまもりなにを進めるのか、回り道をしてきた日本の私達は、いま彼ら彼女たちと同じスタートラインに立っています。心からの親しみをこめて、ゆっくり行きましょうと手を握りあいました。(金井 重