こりゃ大変 80才になると顔も大事
元日本兵士 宮野さんとのキルギス行
お早ようございます。7月号の地平線通信、驚きました。素晴らしいですね。ムサビの学生のなんて素敵なこと、届いた日? の夕刊(朝日18日)にも片リンがのっていました。地平線ではたっぷり読めてラッキー。日本やっぱりいいじゃあないの。そう思いました。暑さの折り 御健斗を。とにかく25日に出発します。ブータンです。CHN向後さんの意見に賛成です。報告者のひと言アーロンにも。(7月22日)
成田から埼玉行の車内で、60代の主婦二人は「モンゴルからの帰りです。大草原を馬で走りました。日本で乗馬クラブに入ってます」日本人のライフスタイルも変りましたね。
私はキルギスのからの帰りです。キリギリスのために海外なの、なんて言われながら……。
ところが、キルギス。宿でも町でも日本人そっくりさんがいます。モンゴリアンです。と言ってもシルクロードの国、面積は日本の半分ですが、多くの人が往き交い、人種も言葉も様々。私達の運転手さんはロシア系キルギス人。ロシア語きり話せませんがどこでもスイスイ。宗主国は強い。今でも主要言語はキルギス語とロシア語です。
シルクロードを走っている自転車の会の人達は、中央アジアに日本兵が抑留され強制労働に従事した事実? に接してきました。カザフスタンなど墓地もあり、日本兵の証言集もあります。キルギスは日本兵が建てた建物(サナトリウム)が残っていまも稼動していますが、日本兵の証言がありません。シルクロード雑学大学代表の長沢さんが手をつくし、元日本兵の宮野さん(農業)と再訪することになりました。
今回は自転車でなく車で、宮野さんは81才なので、というお誘いをうけキルギス行となりました。それでも半日カラコムへ馬でトレッキングしたり、世界第二の高山湖、ソ連時代は外国人立入り禁止のイシク・クル湖で、宿の娘や地元の人達に混って泳ぎました。残念だったのは、元日本兵が造ったサナトリウムの泥浴が、50才以上は医師の診断書が必要ということで、見学だけになったこと。ミキサーで柔かな黒々とした泥を充分な厚さに裸の体にぬる、大胆な泥浴でした。終ったあとの身も心も軽やかな気分は最高だそうです。
目的の国際交流、元日本兵士の証言も大成功でした。サナトリウムのあるタムガ村で、年配の村人たちと懇談のあと、中年の男性が当時の責任者カタパンの部下の息子ですというではありませんか、翌日再び父親と同居していた彼に、どんな日常生活の中で、父が日本兵に関するどんな話しをしていたのかを聞きました。
戦後は定年まで測量士として働いた父親が、晩年いつも話していたのは、抑留されていた日本兵のこと、仕事の真面目さ、整理のよさ等々、長男の彼は父の最高の思い出だった話しを毎日聞いていたのです。彼は50代、地元の教師をしてます。亡き父の思い出を語る彼の表情の優しさに胸がジーンとしました。そしてサナトリュウムに働く看護士さんと、資料室の設置や、なにをどう保存するかなど、具体的な話しも進み、充実した現地交流でした。
私たちがビシュケクを出発するとき、TV局や新聞社の記者が同行し、タムガまでの道程で宮野さんの記憶にある場所、場所で取材し、タムガでは翌日村人との懇談までを取材しています。私たちは他にも日本兵が働いた場所を探したり、ブルジエヴァルスキー博物館を見学したり、イシク・クル湖を一周して南湖岸の野外博物館まできたら宮野さんに「私はTVであなたを見た」という人も現れ、行く先々プラナの塔やアクベシム遺跡でも反響? がありました。
帰国前日首都ビシュケクで、日本センターの「宮野さんに聞く会」にも多くの人が参加しました。帰りに新聞社の婦人記者が「TVの宮野さんの顔がとてもいい顔していた。それで今日は話しを聞きにきた」(こりゃ大変80才になると顔も大事)という和やかな友好の会であり、キリギスの旅でした。(08.7.1~12)
ぞろぞろと青い目黒い目人のむれ
川を渡りて隣りはキリギス
(直行便はありません。カザフスタンから陸路で)
地平線へ ひとすじ続く天山北路
牛の群れさけ絹の道ゆく
(アルマトウからキルギスへ短かいけどまさにシルクロード)
もと兵士は異国の取材のフラシュ浴び
戦車に飛びこむポーズ二度三度
おずおずと父はカタパンの副官と
兵士の回顧談に奇縁の邂逅
カタパン(ソ連軍人へ日本兵のニックネーム)
ハゲ山の廃墟の工場音もなく
たわわの杏子に鳥もよりこず
(もと日本兵が働いた工場)
カラコムへ一本の細き道ありて
宙(そら)山をつつみ人馬をつつむ
川に入り水のむ馬を待ちにけり
馬の意にまかす風のやさしさ
(農家の三才馬 泣く子と三才馬です)
青く光るイシク・クル湖の冷たくも
激しく襲う大波高し
(一面の湖なのにこの高波はどこから)
草丘のここにあすこに岩絵あり
岩の間を野兎かける
岩に坐し幻のイシク・クル湖よ
三歳法師の姿はるかに
金井 重