六月詠
石見銀山
金井 重

トンネルの 小さきをくぐり 下は海
  山陰本線 二輛のディーゼル

崩れたる 石垣石碑 点々と
  歴史を秘めし 銀山の道

今はなき 垣内に住む 家族らの
  日々のくらしや 思うだにいとし
 ★垣内=天領時代 柵で囲まれ出入口には番所が置かれた

ふみ出して ライトたよりに 背をちぢめ
  この闇堀りしか 間歩の冷たさ
 ★間歩=坑道・坑口

暗き穴 ここにあすこに 口あけて
  間歩のあかしを 語るがごとし

なだらかな 馬の通いし 道消えて
  石の急坂 大久保間歩へ

ヘルメット 長靴はきて ライト手に
  地下も頭上も 手掘りの間歩ゆく

山と川 みどりの中の 伯備線
  備中神代あり 吉備に入りしか

登りきて 年輪しみじみ 円通寺
  鉄鉢を手に 若き良寛
 ★円通寺=良寛が修行し「印可の偈」をうけた寺

国仙和尚の 木像拝し 墓おがみ
  長連寺辞す しぐれの中を
 ★国仙和尚=良寛の師

県都岡山の 路面電車も スマートに
  六層の天守 漆黒の烏城かな