[偽りの世に]
「おめでとう、今年のお正月はいかが致せしや」「子年です、寝正月しました。しげさんはどうしてましたか。いつもは何してんですか」「読書ですよ。地平線通信読んでます」「えっ読書? 読書が地平線通信ですか」「そうです。B4二つ折り毎月の地平線通信。そんなにびっくりしないでよ」
手元にある十二月号の通信をみてみましょうか。いろいろあるけどまず五頁の『狩猟のすすめ・食べるために殺す過程』(服部文祥)と彼がすすめる、みすず書房の機関誌「月刊みすず」十一月号も一緒に読むと、サバイバル登山では自分の食べるものは自分で捕って、殺し、食べる。食べるなら自分で殺せ、覚悟はあると明言してます。そして村の巻き狩りに参加しついに鹿を一頭仕留めます。山中を駆け回り、じっと期待してついに撃つ。倒れた鹿の頸動脈を切ってとどめを刺す。私も緊張しました。音をたてないように、鹿に感づかれたら大変。そして射止めたあととどめを刺すまで手に汗を握りました。最後に彼は、これからこいつを下して、解体して、肉を分ける。僕はレジャーハンターじゃあない、と高らに宣言します。彼自身に。
そうよね。私達の暮らしの中にあふれている食べ物と、食べられるものの生命の距離、これはとても恐ろしいことなんです。『本当に命を大切に思うかどうかは、少年時代に殺した昆虫の数による』とサル学者の河合雅雄さんがおっしゃっているのをふと思い出しました。
一見狩りとは別のようですが根っ子は同じでしょう。とにかくいつか読もうと思っていた「河合雅雄の動物記(1)ゲラダヒヒの星」をしっかり握っていました。この痛快さ面白さで次々と五巻、冬場の暖かい場所で毛づくろいしながら読みました。どうしてこんなに面白い本が書けるのだろうと、彼の自伝がのっている「森に還ろう」も読みました。彼のジャングルでの楽しさ、凄さ、たいしたもんです。気がついたら世の中は新しいカレンダーになるところです。
地平線通信十二月号はまだ五頁と六頁を読んだだけです。最後の頁をみて下さいな。葉巻をくゆらす地平線ゲバラのチャーミングなこと。二十数年前の南米の貴公子も今や中年真っ盛り。世界に二人きりいないカーニバル評論家、白根全さんです。彼は南米を云々するならまず伊藤千尋「反米大陸」をはじめ、それぞれの名著十数冊、数千頁の書名をあげ、読破してこいと檄をとばします。ゲダラヒヒの次は「反米大陸-中南米がアメリカにつきつけるNo!」(集英社新書)です。
こんな具合で地平線通信の読書は、延々と続くのでありますよ。
偽りの世に
偽 偽の情けない世に
君この勇気溢れる通信
天からの贈りものを
悦んで下さい
偽 偽証の呆れた世に
志溢れる通信が
君の手に渡る縁を
悦んで下さい
偽 偽造の凄まじき世に
信義溢れる通信を
交り合う生命を
悦んで下さい
さてさて話はもとに戻って、十二月号のフロント頁です。読むほどにあーら不思議、ある日ある時、東京のど真ん中新宿の彼方からゆらゆらと、山の気が立ちのぼったのであります。
新宿のアジトに集う四人衆
山の精みち 山の気うまし
(金井 重)