「まごころ語の実践者へ」
金井 重 様
 お元気で傘寿をお迎えになり、おめでとうございます。また、地平線通信を通してのお手紙ありがたく拝見しました。メキシコご出発前の気忙しい時にもかかわらずご丁寧なお言葉恐縮に存じます。
 先年地平線会議の皆様が私の米寿と長寿のお祝いをして下さった折り、金井様も同席してくださいましたね。私のつたない体験を聞いてくださったことが世界中を駆けて行動しておられる皆様にとっていささかなりともご参考になり得たとすればありがたいことと存じます。
 さて金井様が仰言るとおり私は今年90才になり、年が明けて3月には91才ですが顧みますと老後の生活は極めて平々凡々なものでしたが、金井様の50才以降のご活動(137か国訪問)を知り、唯々驚くばかり、同時に心からの敬意を感じました。年令上体力的にも精神的にも常人のできることではありません。
 今回のメキシコ訪問で138か国になりますね。これまでに訪れた国々での会話などどうしていらしたのですか?
 私なりに想像させて頂きますと金井様は何か国の「ことば」はお話しになられたことでしょうが、その他の国々の「ことば」は……私は金井様の「まごころ」が相手方に通じたものと信じています。
 1939年、私のチベット潜行に際し、多田等観先生が仰言ったことの中で、どこに行っても真心で接しなさい、たとえ「ことば」の通わない未開地域の人々でも「まごころ」は必ず通ずる。と諭されましたが、金井様の場合はまさにこの通り実行されたものと思います。
 何卒今後もご健康には十分ご留意され、無理をなさらず、更に米寿、卒寿、白寿、上寿とご精進なさるよう薩摩半島の南の果てからお祈りします。
  11月7日         野元 甚蔵
注:多田等観=西本願寺の大谷光瑞によりチベットに派遣された学僧。1913年から10年にわたりセラ大僧院でチベット仏教を修行。ダライ・ラマ13世との親交は有名。